緑の悪霊 第17話


「・・・説明をしろ」

部屋の惨状を見て完全に困惑したルルーシュは、それでもどうにか声を出した。

「見ての通りだよ?害虫駆除」

事もなげに言ったのは、先ほどの緑色の瞳の悪霊・・・スザクだった。
窓辺からルルーシュの元へと歩み寄るスザクは、それはもういい笑顔だった。

「ふう、疲れた。ルルーシュ、明日の朝食はピザだ」

咲世子が開けた窓からのっそりと部屋に入ってきたのは、緑の髪の悪霊・・・C.C.。
乱れた髪を手ぐしで直し部屋に入ると、その背中に着けられていたロープを咲世子が手際よく外した。光を反射しない漆黒のロープを屋上から垂らし、それで体を固定していたらしい。
髪が直され顔が顕になると、あの金色の瞳が楽しげに細められていた。
そして、俺の足元には、ジノがいた。
灯りが戻った時には既にジノは倒れており、いつの間にか室内に入っていた咲世子がロープで縛り上げていた。ピクリとも反応しないジノは完全に気絶していた。
その縛り方が亀甲縛りだったので、可哀そうと思うべきかもしれない。
ロープを片付け終えた咲世子とC.C.は、どこから取り出したのかカメラをジノに向け、無残な姿で気絶している様子を楽しげに撮影していた。

「お兄様、ご無事でしたか?」

その声にハッとなり、視線を扉に向けるとそこにはナナリー。
彼女は手に長い棒のような物を持っていた。

「タイミングはいかかでしたか?」

にっこり笑顔で可愛らしく首をかしげたナナリーに、ルルーシュ以外の全員がにっこり笑顔で頷いた。

「完ぺきだったよナナリー」
『ブレーカーの上げ下げ程度出来て当たり前だけどね』
「よかった。私もお役に立てましたね」
『壁を蹴って窓から入っただけの人に言われたくありません』

にこにこと楽しげに笑っている(ようにルルーシュだけが見える)状況に、ルルーシュは思わずこめかみを押さえた。
何がどうなったらこのメンツがここに集まるんだ?
自分を助けに来たと考えていないルルーシュは困惑するばかりだった。

「お兄様」

困ったように笑うナナリーに、ルルーシュはすぐに駆け寄った。

「ナナリー」
「お兄様、いけませんよ?このような男性に簡単について行くなんて」

まるで幼い子を叱るように、ナナリーは言ったが、ルルーシュは何の話だと首を傾げた。
ここでジノを陥れようと引っ張り込んだのは自分だ。
だから簡単に着いて行ったわけじゃない。連れてきたんだ。

「何を言っているんだいナナリー。俺は簡単になど」

その言葉を、スザクは遮った。

「あのねぇルルーシュ。君、気付いてないのかい?ジノっていったっけ?この男、君に一目惚れしたんだよ?」

ルルーシュの横に立って、スザクは苦笑した。

「ひとめ、ぼれ?」

スザクの口から出た単語の意味が一瞬理解できず、ルルーシュは目を瞬かせた。

「気づいてなかったのですか、お兄様」
「違うんだよナナリー。この男は俺ではなくスザクを狙っているんだ。俺はそうだな、いわば前菜のような物だ」

はっきりきっぱり言い切ったその言葉に、全員がため息をつく。
前菜どころかデザート付のフルコース。
スザクはそれを狙う蠅程度に思われていたのに、まさかスザクが狙われていると勘違いしていたとは。さすがに全員あきれ顔だ。
超鈍感天然スキルもここまで来ると笑えない。

「ルルーシュ、いいか?」
「C.C.、俺もお前には聞きたい事が山ほどあるんだが」

ワントーン落として、ルルーシュはC.C.を睨みつけた。
ジノもだがスザクも軍人。しかもC.C.とはシンジュクではぐれ、消息はわからないと嘘までついたのに何当たり前のような顔してここにいるんだ。しかもそれ、俺の服だろ!

「それはこの際置いておけ。いいか、この盛りのついた雄犬はな、お前のその美しい顔に一目惚れしたんだよ」
「・・・ほう?」

ルルーシュは不愉快そうに目を細めた。
C.C.がこんな場所で嘘をつくとは思えない。
そして、ジノが自分に惚れたという前提で状況を整理してみる。

「つまりこの男は、スザクを、ましてやナナリーを我がものにする事は考えていなかったと言う事か?」

何だそうだったのか。
ルルーシュはいい笑顔でほっとしたように息をついた。

「むしろあの状況で、どうして僕狙いだと思ったのか、ものすごく聞きたいよ」

若干疲れた声でスザクは言った。

「お前のように明るく元気がある上に可愛くて、しかも美しく鍛えられた肉体を持つ男の方が狙われるに決まっているだろう」

残念ながらどちらも自分にはない物だが・・・っ!!
変な所でルルーシュは悔しがっていたが、スザクはぱあっと明るい笑顔となり、頬を染めた。

「それって、僕の事が好きってことだよね、ルルーシュ」

目にもとまらぬ速さでルルーシュの両手を取り、スザクはキラキラとした目でルルーシュを見た。

「何をいまさら。お前の事は好きに決まっているだろう?」

親友なんだしな。大体、嫌いなら食事に誘わない。
と、続いた言葉は完全に聞こえておらず、スザクの頭には祝福の鐘が鳴り響いていた。なんだかよく解らないが幸せそうなスザクに、ルルーシュもまた微笑み返した。

「お兄様」

ナナリーの一声で瞬時に意識をナナリーに向け、スザクの手も振りほどいたルルーシュはナナリーの前に跪いた。

「何だいナナリー」
「そちらの方ですが」

そちらと言う言葉に、ルルーシュはジノの事を思い出した。

「C.C.さんと咲世子さんのお写真で、どうにか出来ませんか?」

最強を誇るナナリーのお願い。しかも明確な意図を告げづにルルーシュに一任すると、ルルーシュは「任せろナナリー!」と、ものすごくやる気を出した。



目を覚ましたジノは、ラウンズのマントを外した状態で客室のベッドに横たわっていた。その傍には心配そうなルルーシュがいた。

「私は・・・」

ジノはどうして自分がここにと、困惑した表情を浮かべている。
当然だろう。
ルルーシュでさえ咲世子があの暗闇の中でジノを一瞬で亀甲縛りにしたなど、目にしていても信じられないのだ。
ジノはもっと信じられない事だろう・・・自分の今の姿に。
ラウンズのマントは外されているが・・・ロープはそのままだった。
白い騎士服に赤いロープはよく映える。
ジノの顔色は一瞬で蒼くなった。
皇帝の騎士である自分がこんな姿に。しかもそれをルルーシュに見られた。精神的ダメージが大きすぎ、我を忘れ暫くの間呆然としていたジノにルルーシュは声をかけた。

「すみません・・・解こうと思ったのだが、俺の握力ではどうにもならなくて・・・ロープもハサミでは切れないぐらいに硬くて」

そう言って、ルルーシュは手にしていたハサミでロープを切ろうと試みるのだが、刃を受け入れてくれなかった。
当然だ。ワイヤーが練り込まれているロープなのだから。

「だ・・・だれがこんな事を!?」

まさかルルーシュか!?
ジノは思わず疑いの目をルルーシュに向けると、それに気づいたルルーシュは悲しそうに顔をゆがめた。

「違う、俺じゃない!・・・すみません。悪霊が、母さんがこんな・・・」

悲しく沈んだ声で話すルルーシュに、ジノはしまったと思ったがもう遅い。
疑った事実はもう消えることはない。

「その上、カメラで沢山の写真を撮っていったんです」

ジノが見えるようにその写真をルルーシュはベッドに並べた。
写真には間抜けな姿をさらし気を失っているジノ。
そして驚き硬直しているルルーシュ。
その写真から、ルルーシュもまた被害者なのだという事が分かる。

「カメラはデータごと何処かに行ってしまいました・・・おそらく、また俺の傍に来た時は・・・」

そう言ってルルーシュはちらりとテーブルを見た。
そこにはノートパソコン。
まさか、と、ジノは顔を青ざめた。

「写真好きで、映した物をブログにあげるのが好きな母でしたから」
「母・・・あの緑の長い髪の・・・緑の瞳の悪霊が・・・」

『息子に手を出したらこの写真を晒しますよ、ラウンズのスリー様』

そんな声が耳に届いた気がした。
ぞわりと背筋に嫌な感覚が走り、ジノは思わず辺りを見回した。

「大丈夫です。そのロープが解けない限り、俺が傍にいても母は現れませんよ」

美しい憂い顔で話すルルーシュに、ジノは頬を赤らめた。
諦めきれない。
この程度で諦めてたまるか。
ジノは真剣な顔で---亀甲縛りでベッドに転がっているという間抜けな格好で、ルルーシュは笑いをこらえるのが精いっぱいだったが---ルルーシュを見た。

「ルルーシュ、私と共に来てくれないか。悪霊は、必ず払って見せる」

お、まだ言って来るか。
なかなかしぶといな。
とは口には出さず、ルルーシュは首を振った。

「放っておいてください」
「嫌だ。愛しているんだルルーシュ」
「愛して・・・?先ほどもおっしゃっていましたが、まだ出会ってそんなに時間は経ってませんよね?」
「時間は関係ない・・・一目で貴方を好きになってしまったんだ」

・・・待っていたよその言葉。
ルルーシュは心の中でほくそ笑んだ。

「ひとめぼれ、ですか?」
「ああ。玄関で会った時から、君を愛している」
「玄関で・・・」

ルルーシュの声はどんどん低くなり、その顔から表情が抜け落ちた。
突然のルルーシュの変化に、ジノはざわりとした恐怖を感じた。

「つまりこの顔を気にいったわけか。この、俺の顔だけを」

がらりと変わった口調に一瞬戸惑ったが、ジノは否定の声を上げた。

「顔だけじゃない、話しをして・・・」
「話し?あんな僅かな会話で俺の何を知ったと?」
「それは・・・」

碌な会話はしていない、しかもラウンズ相手にした会話。
それで何が測れる?

「貴方が好きなのはこの顔だけ。俺としては今は亡き母に似ていると言われるこの顔を好きだと言われれば、母を褒められているようで嬉しいが・・・なんだ、ラウンズ様は見た目が気に入っただけで愛を語るのか、随分と安い愛だな」
「確かにルルーシュの事はまだ知らないが、私はもうルルーシュ無しで生きたいと思わないんだ」
「この顔を、気にいったから傍に置いて鑑賞したいだけだろう?」

美人は3日で飽きるというから、きっとそうやって愛を語られ、信じて着いて行き、飽きられて捨てられた女と男は多いんじゃないか?

「そうじゃない!」

こんなこと初めてなんだ!

「では、俺の姿がスザクと入れ替わっても、俺を好きだと言えるか?」

にっこり笑顔で尋ねると、途端にジノは口を閉ざした。
よりにもよってあのスザク。
ルルーシュは俺のものだと全身で訴え殺気を飛ばしてきたあの不愉快気周りないイレブン。あいつの事は、嫌いだ。
その思いが顔に出たのだろう、ルルーシュはそれ見た事かと鼻で笑った。

「では、俺がこの顔を醜く整形しても、俺を好きだと言えるのか?」

にこにこと機嫌の良さそうな笑顔で言うルルーシュにジノは首を振った。

「ルルーシュはルルーシュの姿だから愛しいんじゃないか!」

その美しい顔を傷つけるなんてあり得ない!

「そんな安い愛などいらない。俺は外見だけの男じゃない。これ以上俺を馬鹿にするようならこの写真、俺が流す」

ネットに。
冷やかな口調で言われた言葉に、ジノは唇をかんだ。
ルルーシュではロープは無理だと助けを呼びに部屋を離れ、連れてきたのはスザク。にやにやと楽しげな笑顔を向けるスザクがロープを解いた事で、プライドがズタズタになったジノは大人しく政庁へと戻った。

ジノはその後、緑色の髪と瞳の悪霊の夢にうなされ、本当にゴーストは存在するのだと周りに言っても信じてもらえず、さらには写真はネットには流れなかったが、1枚だけ気絶した間抜けな姿の写真がナイトオブワンあてに送られ、その写真でナイトオブワンがスリーをどう処分したかまでは、送った張本人であるナナリーも知らない。



「ルルーシュ!僕は君の顔以外も全部好きだよ!」

必死に言い募るスザクに、ルルーシュは冷ややかな視線を向けた。
どうやら見た目だけの男扱いされたことで、若干人間不信になったらしい。
スザクは幼馴染だし、内面も見てくれていると思ったのだが、わざわざこの話題を引っ張り出してきた事がどうにも引っかかるルルーシュだ。
信じてよー!と叫ぶスザクを冷やかに見ていると、くいくいと服の裾を引かれた。視線を向けるとそこにはナナリー。

「私はお兄様のお顔は見えませんが、お兄様の事を誰よりも愛しています」

傷心のルルーシュに天使の微笑みは最強の癒やしだった。

「っ!ナナリー!俺にはお前だけだ!!愛しているよ!!」
「お兄様!」

がっしりと熱い抱擁を交わす姿を、スザクは悔しげに見ているしかなかった。
結局今回の勝者もナナリー。
もう一人の勝者は、朝からピザを腹いっぱい食べたC.C.。

堂々とルルーシュの部屋に居座り、あまつさえルルーシュのベッドを占拠するC.C.とルルーシュが将来を誓い合った仲だと聞いて、嫉妬と独占欲が爆発したスザクVSC.C.&ナナリー&咲世子の日常風景をみて、あいつらあの日以降本当に仲がいいな。ナナリーが楽しそうなのはいい事だが・・・俺は除け者なのか?と、ルルーシュが一人寂しい思いをするのはまた別の話。



ルルーシュの下着ネタ(スザクは盗んで、C.C.は身に着けている)回収するの忘れてますね。
ちなみの悪霊の正体は本体がC.C.、目がスザク、声は咲世子、顔はルルーシュなので、ジノにC.C.を見られたとしても、髪は似ているけど目と声が違う。何より顔はルルーシュに似ているはずだからと別人判定されます。

16話